2012年5月13日日曜日

ISD条項


未だにデマに騙されている人へ 

ISD条項によって主権が侵害されるとか、未だにデマに騙される人が後を絶たない。 ISD条項が危険だと言う人は、酸性雨の主成分で、海岸線を浸食し、温室効果を引き起こし、毎年多数の死者を産むDHMOも規制するよう呼び掛けるべきだろう。

デマ 真実
歴史NAFTA(1992年12月署名)で初めて導入された。1960年代に投資協定が結ばれ始めた時点から協定に備えられていた(詳細後述)。
導入目的自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲けるため。協定違反への対抗手段(詳細後述)。
国家主権国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている。原理的に国家主権を犯すことはできないし、犯された事例もない(詳細後述)。
手続中立性に欠け、かつ、十分な審理が為されない。制度的にも極めて中立的で、審理も充分に為されている(ISD条項詳細解説)。
仲裁結果常に米国に有利な結果が出る。公開された仲裁結果には、とくに米国が有利とする証拠がない(詳細後述)。
米韓FTA韓国にだけ適用される。双方に適用される(米韓FTAのデマ)。

ソース付きでデマを解説しているページを見ても、洗脳が解けない人がいるのは驚きである。 中野剛志准教授らの主張がデマだと分かった後も「ISDが濫用される危険性がある」と言い出す人はTPP洗脳継続の原理を読んだ方が良い。 まともな判断力がある人なら、常識的に考えてあり得そうもないことが事実だとする主張を見て、それを検証もせずに鵜呑みにはしない。 出典を確認することまでは叶わなくとも、反対意見に目を通すまでは判断を留保するのが、常識人の行動である。 その他、中野剛志准教授らの主張には自己矛盾も多々あり、少し注意深く文章を読めば、その胡散臭さにはすぐに気がつくはずである。 CIAの文書に「人々にUFOを信じさせなくする方法」(嘘に真実を少しだけ混ぜた噂を流しておいて、しばらくしてから嘘をばらすと人々は白けて関心を失う…とか)というものがあるらしいが、中野剛志准教授らの主張はその第一段階そのものにしか見えない。 どうでもいいが、調べてみたらこのCIAの文書は実在しないらしい。国防のために未確認飛行物体を調査したロバートソン委員会のまじめな報告書だったのに、何処をどう取り違えたのか「UFOを馬鹿にするように大衆を洗脳する作戦=プロジェクト・ディバンキング」として噂が広まったらしい。

補足しておくが、次の3つは全くの別問題である。

  • TPPに賛成すべきか反対すべきか。
  • 中野剛志・東谷暁・三橋貴明らが完全なデマを流布していること。
  • 人々を扇動するためにデマを流布して良いかどうか。

中野剛志准教授らの主張がデマであることは、TPPに賛成すべき理由とはならない。 そして、仮に、TPPに反対すべきだったとしても、それはデマを流布して良い理由にはならない。 TPPに反対していることが問題なのではなく、反対する手段としてデマを流していることが問題なのだ。 本当にTPPに反対すべきであるならば、デマではなく、反対すべき真の理由を説明すべきである。

TPPに懸念事項があるのは事実だが、それは次の4つに大別される。

  1. ほぼ確実に起こる懸念事項
  2. 確実でないが警戒すべき懸念事項
  3. 可能性がないとは言えないが警戒するほどでない事項
  4. 現実的にあり得ない事項

たとえば、漁業補助金の原則禁止は1番目、例外なき関税撤廃は1〜2番目である。 しかし、それら以外の反対派の主張の多くは3〜4番目である。 中野剛志准教授らの流布するデマはほぼ4番目(現実的にあり得ない事項)である。 「ISD条項によって主権が侵害される」などというデマを信じている人は、より簡潔にISD条項を説明したISD条項詳細解説を読むことを勧める。

こちらのページは、中野剛志准教授らの流布するデマに対して個別に反論することを目的としているので、全体として何が言いたいか分かり難いかも知れない。 簡潔明瞭に分かりやすい説明を必要とする人は、ISD条項詳細解説を見てもらいたい。 ISD条項にも手続的には瑣細な問題がないわけではない。 しかし、中野剛志准教授らの主張するような国家主権の侵害だの治外法権だのの類いは完全なデマである。 国家主権は国際法に沿った範囲で認められるのであり、国際法に違反する国家主権など初めから存在しない。 存在しないものを侵害することなど不可能である。

尚、中野剛志准教授には故意にデマを流布している疑いがある。 早稲田大学政治経済学術院の若田部昌澄教授によれば、中野剛志准教授は きわめてきっちり経済学を理解して よりよく生きるための経済学入門第14講TPP再説とグローバリゼーションP.1 - 筑摩書房 自説にふわさしい理論を的確に選んで 「そう言われればそうかな」と思ってしまうようなところを突いて論を展開してくる 反面教材としてはなかなか悪くない よりよく生きるための経済学入門第14講TPP再説とグローバリゼーションP.6 - 筑摩書房 人だそうだ。

国際投資仲裁/投資家対国家紛争(仲裁)に関する条文(ISDS条項又はISD条項) 

TPPお化けとして、ISD条項が国民皆保険制度を崩壊させるとするものがある。

ISDとはInvestor-StateDisputeの略で、「投資家対国家間の紛争」。
外資が損害を被ったと判断した時、相手国を提訴できるのがこの条項。
「国民皆保険制度」の存在が、外資保険会社に損害をもたらした、と外資保険会社が判断すれば、日本国政府を訴えることができるというとんでもない条約。
そして、裁定は世界銀行傘下にある非公開仲裁委員会で行われるため、上訴することは不可能で、強制力を持つ採決となります。
すなわち、訴訟されれば日本国政府は莫大な賠償金を支払わなくてはならなくなります。
保険に関わらず、何にでもイチャモン付ける事が可能な印籠。

目を覚まして - 楽に生きる

結論を先に言えば、「何にでもイチャモン付ける事が可能な印籠」は大嘘であり、この「外資保険会社」の訴えは通らない。 その詳細は後述する。

このISD条項についても、もちろん政府マスコミは口を塞いでいます。

目を覚まして - 楽に生きる

これは全く事実に反している。

役所も国会議員も秘書も、ちゃんと説明する人は説明しているのである。 個人のブログまで探せば情報はいくらでもある。

事実、検索エンジンで検索してもほとんど検索結果が出てこないような状況。

目を覚まして - 楽に生きる

「検索エンジンで検索してもほとんど検索結果が出てこない」のは検索ワードが間違っているかららしい。

なお、経済産業省をはじめとする我が国政府の公表資料では、「ISD条項」という表現は使われておらず、「投資家対国家紛争(仲裁)に関する条文」といった表現が多く使われている。 また、これを含んだより広い概念として「国際投資仲裁」という用語も使われる。 よって、「日本政府はこれまでISD条項について無防備だった」という物言いも正しくない。 そういう非難をする者が、ググるときにキーワードを正しく設定していないだけなのだ(笑)

「ISD条項」についての考察 - イザ!

仲裁定手続 

このISDとは、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度である。

しかし、このISD条項には次のような問題点が指摘されている。

ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。 しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけに向けられ、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されない。 その上、この審査は非公開で行われるため不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。

また、この審査の結果に不服があっても上訴できない。 仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正することができないのである。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.4

これも故意に誤解を生む表現が使われている。 この文章では、あたかも中立性に欠け、かつ、十分な審理が為されないように見えるが、実態は真逆である。 「審理の関心は、あくまで『政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか』という点だけに向けられ、『その政策が公共の利益のために必要なものかどうか』は考慮されない」に至っては、真実と真逆の完全なデマである。

デマ 真実
中立性仲裁機関が米国の支配下にあるので米国に有利な判断になりやすい。当事者それぞれの推薦各1名と双方合意の1名の計3名が仲裁人となる極めて中立な人数構成。
審理対象「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけ。協定違反の有無と効果を判定する。
情報公開審査は非公開で行われるため不透明。ICSID仲裁では、仲裁判断の法的判断の要約は必ず公開されるし、仲裁判断そのものも相当数が公開されている。絶対的に非公開であれば中野准教授らが挙げた具体例はどうやって情報を得たのか?
判例拘束判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。協定内容からの結果予想は可能。先例を参照する仲裁判断も多い。途上国の裁判所よりは結果を予想しやすい。
充分な審理上訴制度がないので十分な審理が為されない。仲裁定には当事者の主張の十分な機会を与える義務がある。
不服申立て上訴制度がないので判断に誤りがあっても正されない。上訴制度は「判断の一貫性」の問題であって、判断の正しさは別問題。解釈・再審・取消制度はある。
政府関与法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正することができない。仲裁結果を「国の司法機関」が覆せたら協定違反し放題になる。NAFTAでは国内裁判所で取消判断が可能。

詳細はISD条項詳細解説に書く。

仲裁定事例 

NAFTA 

このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)において導入された。 その結果、国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている。


要するに、ISD条項とは、各国が自国民の安全、健康、福祉、環境を、自分たちの国の基準で決められなくする「治外法権」規定なのである。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.5

以下で詳細に検証するが、ISD条項は、協定違反の有無を認定するだけなので、原理的に「治外法権」にはなり得ない。 NAFTAの仲裁定事例には、中野剛志准教授らが挙げた事例にも、経済産業省が公開している資料にも、言いがかり訴訟で企業側が勝った事例は1件も見当たらない。 中野剛志准教授らは、訴えの正当性に関する情報を故意に伏せて、あたかも、「国家主権が犯される事態がつぎつぎと引き起こされている」ように見せ掛けているだけなのだ。 中野剛志准教授は、何故か、事件を特定するために必要な具体的名称を出さない。 「ある神経性物質」「ある燃料企業」「ある米国の廃棄物処理業者」「ある米国企業」と、何の物質か、どの企業か、特定する情報は悉く伏せられている。 金額は具体的に提示しているのだから、うろ覚えで書いているわけではあるまい。 中野剛志准教授は、情報を検証するために必要な事実を故意に隠しているのではないか。 具体的に検証されたら嘘がバレるから、故意に、情報を隠蔽しているのではないか。

Etyl事件 

たとえばカナダでは、ある神経性物質の燃料への使用を禁止していた。 同様の規制は、ヨーロッパや米国のほとんどの州にある。 ところが、米国のある燃料企業が、この規制で不利益を被ったとして、ISD条項に基づいてカナダ政府を訴えた。 そして審査の結果、カナダ政府は敗訴し、巨額の賠償金を支払った上、この規制を撤廃せざるを得なくなった。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.5

この事件の真相はISD仲裁事例のEtyl事件を参照のこと。 中野剛志准教授の話を真に受ければ、Etyl社がとんでもないモンスター企業に見える。 しかし、中野剛志准教授は重要事実を隠していたのだ。

  • 「MMTの流通を禁ずる新法」はカナダ国内通商協定(カナダの国内法)に違反する法律だった。
  • 「MMTの流通を禁ずる新法」はカナダ国内の州からも提訴された。
  • 国内通商協定違反を正当化するほど危険性を示す証拠は何もなかった。
  • 仲裁定判断が下されたのではなく、カナダ政府が非を認めて和解した。

この事例は、カナダ政府に一方的に非があった事例であり、企業側の損害賠償請求は正当であった。 また、カナダ政府が法律を廃止したのは、カナダ政府の国内判断であり、ISD条項とは関係がない。 そもそも、和解により仲裁定判断が示されなかったのだから、この事件ではカナダ政府には国外部からの強制力は何ら作用していない。 ISD条項とは無関係に、国内法違反だとするカナダ国内の州からの提訴が認められたから、法律を廃止したのである。 つまり、規制撤廃は完全なカナダの国内問題として処理されており、ISD条項によって国家主権が犯されたとする主張は全くのデマである。


私は公共の公園でどこでも行くことができます

S.D.Meyers事件 

また、ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止した。 これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなった。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.5

この事件の真相はISD仲裁事例のS.D.Meyers事件を参照のこと。 中野剛志准教授の話を真に受ければ、S.D.Meyers社がとんでもないモンスター企業に見える。 しかし、中野剛志准教授は重要事実を隠していたのだ。

  • NAFTAでは、環境保護を理由とした規制を認めているが、環境保護と投資促進を両立すべきとなっている。
  • 仲裁定は、規制を口実にした外国企業の排除を禁止しているが、本当に必要な規制は認められるという判断を示している。
  • 仲裁定は、環境問題で正当化されない規制における内国民待遇違反の認定には「国内系企業の保護目的までは不要であり、差異の効果で足りる」としている。
  • 仲裁定は、規制がカナダ国内企業の保護を目的としていると認定した。

この事件では、環境保護に偽装した協定違反を行なったのだから、カナダ政府に一方的に非があった事例であり、企業側の損害賠償請求は正当であった。 つまり、この事例は、ISD条項が建前通りに適切に機能した事例であり、ISD条項の有用性を示す事例である。

Metalclad事件 

メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して、その許可を取り消した。 すると、この米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得することに成功したのである。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.5


メキシコではアメリカのメタルクラド社がゴミ処理施設を作ろうとした。が、近所の住民が環境病を起こしたことで地方自治体が建設許可を却下したらISDによって訴えられ、メキシコ政府は莫大な賠償金を支払うことになった。

TPPの前に米韓FTAがあった - BLOGOS

この事件の真相はISD仲裁事例のMetalclad事件を参照のこと。 中野剛志准教授の話を真に受ければ、Metalclad社がとんでもないモンスター企業に見える。 しかし、中野剛志准教授は重要事実を隠していたのだ。

  • Metalclad社は許可取得済みのメキシコ企業を買収し、連邦政府からも許可を得ていた。
  • 「有害物質の埋め立て計画の危険性」は住民運動にのみ基づいていて、具体的根拠がなかった(「近所の住民が環境病を起こした」という事実は存在しない)。
  • その結果、Metalclad社の廃棄物処理事業は事業中止に追い込まれ、多額の損害が発生した。

これでは外国企業を狙い撃ちにした嫌がらせだと取られても仕方がなく、メキシコ政府に一方的に非があった事例であり、企業側の損害賠償請求は正当であった。 つまり、この事例は、ISD条項が建前通りに適切に機能した事例であり、ISD条項の有用性を示す事例である。

ADMS事件(コーンシロップ事件) 

このISD条項をめぐっては、過去にこんな事例が……。

1997年に起きた、コーンシロップ事件。

アメリカの企業がメキシコで、砂糖の代替品となる甘味料を生産していましたが、メキシコ政府が、砂糖以外の甘味料を使うものに対し、課税を行ったのです。

アメリカ企業は、これはメキシコ政府が自国の砂糖を優遇するものだと、国際機関に訴え、メキシコ政府が敗訴しました。

このISD条項について、政府は「TPP参加国から、日本企業を守るためには重要だ」などという見解を示しています。

「アンカー」ISD条項は"インチキな訴訟で大打撃"条項by宮崎哲弥氏 - ぼやきくっくり

この事件の真相はISD仲裁事例のADMS事件を参照のこと。 この話を真に受ければ、訴えた企業はとんでもないモンスター企業に見える。 しかし、また重要事実が隠されていたのだ。

  • 「砂糖の代替品となる甘味料」(HFCS)を生産するメキシコ系企業が存在しなかった。
  • 仲裁定は、メキシコの砂糖産業を保護する意図があったと認定した。

この事例は、実質関税を掛ける協定違反行為としてメキシコ政府に一方的に非があった事例であり、企業側の損害賠償請求は正当であった。 つまり、この事例は、ISD条項が建前通りに適切に機能した事例であり、ISD条項の有用性を示す事例である。

水資源 

資料のページ二でありまして、NAFTAにおいてこのISD条項で一企業、投資家が国を訴えた紛争解決事例、一番最後の行で、サンベルトウオーター対カナダ、一九九九年の事例を御覧いただきたいと思います。 これは、カリフォルニア州の企業、サンベルトウオーターがカナダ政府をNAFTA条約の第十一条に基づいて提訴をした案件でありまして、この損害賠償請求の金額は当時百五億ドルという非常に膨大なものであります。

一体これは何がどうしたかといいますと、実は、カナダの州政府でありますブリティッシュ・コロンビア州政府がこのサンベルトウオーターと契約を結んで、数億万ガロンの水の輸出の契約をしたと。 それをブリティッシュ・コロンビア州政府があるとき停止をしたために、利益が損なわれたということでサンベルトウオーターがカナダ政府を訴え、賠償請求として百五億ドルを請求したという案件であります。

第179回国会参議院予算委員会第2号

佐藤議員の説明が不足していて、このケースの訴えが妥当かどうか判断できない。 この事件の真相はISD仲裁事例の水資源を参照のこと。 2010年09月段階では未だ係争中であったようだ。 残念ながら決着がついたかどうかの資料を見つけることができなかった。 佐藤議員も「請求したという案件」と言うだけで、どのような決着がついたか説明していない。 つまり、佐藤議員は訴えられることだけを問題視しているのである。 そんなことが問題になるのならば、我が国の裁判制度も廃止しなければならないではないか。 自民党も野党になるとこんな無茶苦茶なことを言い出すようである。

UPS事件 

カナダの場合、「カナダの郵便局は国家の補助をもらうから公平ではない」ということでアメリカの民間宅配会社からISDで訴えられ、莫大な賠償金を払うことになった。

TPPの前に米韓FTAがあった - BLOGOS

この事件の真相はISD仲裁事例のUPS事件を参照のこと。 この事件の仲裁廷は、宅配事業と郵便事業は「同様の状況の下」にないとして訴えを却下している。 つまり、「莫大な賠償金を払うことになった」という事実は完全な捏造である。 また、訴えの理由は「カナダの郵便局は国家の補助をもらうから公平ではない」という理由でもない。

その他 

詳細はISD仲裁事例を参照のこと。 Feldmann事件では、企業側が勝訴しているが、Pope & Talbo事件、Methanex事件では企業側が敗訴している。 いずれも、仲裁判断におかしな所は見られない。 これらの事例のように、実際に被害があったとしても、訴えれば何でも認められるわけではないのだ。 「審理の関心は、あくまで『政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか』という点だけに向けられ」は大嘘である。 仲裁廷は、ちゃんと、協定の趣旨に沿った判断をしているのである。 これら事例では、「差異の効果」および「合理的な政策」を判断根拠として採用している事例が多い。 言うまでもなく、日本の国民皆保険制度は国内企業も外国企業も対等であるから「差異の効果」が発生せず、NAFTAの条文であっても「国民皆保険制度で損害を受けた」とする訴えが通る余地は全くない。

BIT 

詳細はISD仲裁事例を参照のこと。 BIT(投資協定)では、FTA(自由貿易協定)とは違う判断基準が用いられている。 企業側の勝ちと負けが各1件づつ示されているが、いずれも、競争関係に無い場合でも「同様の状況の下(inlikesituations)」であると認定している。 これは、BIT(投資協定)では、FTA(自由貿易協定)の性質の違いによるものである。 これら事例のTPPへの影響については、TPPが単なるFTA(自由貿易協定)なのか、BIT(投資協定)としての役割を含むかによって違っている。 いずれにせよ、「同様の状況の下(inlikesituations)」の文言を削除するか、あるいは、自国産業の保護の意図があるかどうかを内国民待遇違反の判断基準として明記すれば良い。

米韓FTA 

妄想事例 

米韓FTAの最も大きな問題は韓国の医療保険制度の崩壊である。 アメリカで特許が切れた薬に関して韓国内では複製薬の製造を許可してその値段を抑えていた。 しかし大手の多国籍製薬会社がISDで韓国政府を訴え、販売を止めさせれば、当然薬代は値上がりし、韓国は財政難で医療福祉を縮小せざるをえなくなるだろう。

TPPの前に米韓FTAがあった - BLOGOS

これは、「韓国の医療保険制度」の話なのに「アメリカで特許が切れた薬」としているなど、かなり稚拙なデマである。 パリ条約では「各国工業所有権独立の原則」を定めており、各国の特許制度は独立している。 それは韓国の特許制度でも変わらない。 つまり、米国の特許は米国でしか効力を持たないので、「アメリカで特許が切れた薬」であるかどうかと「韓国の医療保険制度」は関係がない。

また、パリ条約では、内国民待遇の原則が定められおり、批准各国とも自国民も他国民も対等に扱う。 もちろん、特許期間についても内国民待遇に従わなければならないから、韓国企業が開発した薬も米国企業が開発した薬も同じ特許期間になる。 つまり、特許切れ医薬品については、韓国企業も米国企業も完全に対等であり、ISD条項での訴えが通る余地はない。

そもそも、ジェネリック医薬品を認めることは国の規制ではない。 医薬品に限らず、特許が切れた製品は誰でも自由に製造販売できる。 そうした自由を制限するならば、それこそが規制行為になる。 ジェネリック医薬品を規制しないことを問題視したとしても、国が規制をしないことに対してISD条項で訴えられるとする根拠はない。

問題点整理 

国家主権の侵害か?治外法権か? 

日本国憲法では、国民の基本的人権を規定している。 しかし、基本的人権は公共の福祉に反しない範囲でのみ認められるとされる。 殺人権や窃盗権などの人権は初めから存在しない。 国家主権もこれと良く似ている。

国家主権とは、国際法に反しない範囲で国際法によって認められるものである。 国際法に逆らう国家主権など、初めからないのである。 国際法には条約や協定も含まれるから、批准した条約に逆らう国家主権などない。 よって、国際法に従うことを強要しても、それは、国家主権の侵害でもないし、治外法権でもない。 初めから存在しない主権を侵害することなどできないのである。

ISD条項は、協定違反の有無を判定し、協定違反があれば損害賠償を認める制度に過ぎない。 つまり、ISD条項では、原理的に、協定で規定されていないことを加盟国に強要することはできない。 ということは、ISD条項では、原理的に、どうやっても国家主権を侵害することなどできない。 協定に従うよう強要することはできても、国家主権を侵害することはできないのである。

中立性 

「世界銀行傘下のICSIDの仲裁は米国有利」という根拠のないデマも見られる。 しかし、ICSID条約を読めば分かるとおり、仲裁定では米国の影響力は行使できない。 ICSID条約の詳細はISD条項詳細解説を参照。

ICSID条約では、当事者の合意によって仲裁人を選ぶ。 仲裁人の数や任命方法が合意に至らなければ、それぞれ1人づつに加えて双方の合意したpresident(議長、座長、司会者)の3名構成となる。 敵味方各1名+中立者1名という構成なら、どちらか一方に有利な構成にはなっていない。 仲裁人はICSIDが用意した名簿から選ぶ義務もない。 そこまで自由に選べるなら、米国が影響力を行使することは不可能である。

当事者が期限までに仲裁人を選ばないとICSIDが仲裁人を選ぶことになっている。 しかし、ICSIDが選ぶ仲裁人は、当事者の何れの国籍でもない第三国の国籍の仲裁人を選ばなければならない。 つまり、米国が当事者であれば、当事者の意思以外では、米国の仲裁人を選ぶことはできない。 米国人を恣意的に送り込むことができないのでは、米国が影響力を行使することは難しい。

実際の仲裁判断も妥当なものばかりであり、とくに米国有利とする根拠がないことは既に示した通りである。

判断の一貫性 

上訴がないことは一定の判断のブレが発生する原因になる。 しかし、ISD条項詳細解説にも書いてあるとおり、上訴による費用や期間の増大を懸念したり、条約文や認定事実に差があるのに一貫性を求めるのは好ましくないとする意見もある。 多少のブレは通常の成長苦の範囲とする意見もあり、OECDの主流意見では上訴問題は緊急な課題とは見なされていない。 事実、ISD仲裁事例を見ても分かるとおり、実際の仲裁事例にそれほど大きな判断のブレがあるわけではない。 多少のブレもないとまでは言わないが、許容できないほど大きなブレがあるとは言い難い。 途上国の裁判所の判断に比べれば仲裁判断の方が遥かに安定しているという意見もある。 多少の問題はあるが、それを解決するために何を犠牲にするか考えれば、そこまでして目くじらを立てるほどの問題ではないだろう。


破産の痛み

毒素は危険? 

毒素は実在したか? 

たとえば、NAFTAの内国民待遇等の条文には通常より多少(著しい問題ではない)厳しめに解釈できる文言=毒素条項が紛れ込んでいることはまぎれもない事実である。 しかし、内国民待遇等は、WTOにおいても基本原則となっている、自由貿易協定における基本中の基本の条項である。 だから、内国民待遇等そのものに問題があるのではない。 投資協定に規定されている投資家対国家の仲裁(投資協定仲裁)の利用が1990年代後半から著しく増加している 投資協定仲裁の新たな展開とその意義 - 独立行政法人経済産業研究所P.1 ので 1992年12月に署名し、1994年1月1日に発効した 北米自由貿易協定 - Wikipedia NAFTAの署名・発効時には毒素状況の危険性の認識が低かった。 そして、既に危険性の認識が世界中で共有された現在では、全く同じ事務的ミスは起こり得ない。 また、NAFTAの問題は、内国民待遇等に紛れ込んだ毒素条項であって、ISD条項の問題ではない。 ゆえに、ISD条項を恐れる必要は全くないし、ISD条項は必要なものである。

想定内解釈 

ISD仲裁事例のような事例で日本が訴えられたり仲裁定で負けたりする可能性は殆どない。 何故なら、カナダやメキシコが賠償金を支払ったような規制には明らかに故意か重大な過失が見られるからである。

通常、先進国で何らかの規制を行なう前に、その規制の影響を調査する。 さらに、それよりも前に、規制の対象となるものの流通や使用の実態の調査をする。 流通や使用の実態のないものを一々規制していたらキリがない。 独裁政権や社会主義国でもない限り、危険な実態があって初めて規制の検討対象になる。 たとえば、脱法ドラッグでさえ、禁止するのに「流通実態の調査」を必要としているのである。

指定に必要な流通実態の調査にも時間がかかり、厚生労働省は「相当な種類が出回っているのが実態」と指摘する。

脱法ハーブ 危険な薬物と認識しよう - 西日本新聞

そして、規制の検討対象になった場合にも、規制による影響を検討する。 日本では、規制の必要性や影響を総合的に検討して、規制を掛けるかどうか決める。 たとえば、石綿など、その危険性が早くから指摘されていた。 そのため、1975年9月に吹き付けアスベストの使用が禁止されている。 しかし、代替品がないことを理由に全面禁止には至らなかった。 青石綿や茶石綿が禁止されたのは1995年、白石綿が禁止されたのは2004年である。 2006年には原則禁止となったが、例外的に一部品目での使用は認められている。 このように、健康被害を発生させる物質であっても、産業上の影響が考慮される。 このような日本のやり方が妥当かどうかは別として、規制の必要性と影響を天秤に掛けて検討することは何処の国でも大なり小なりやっていることである。 そして、そうした検討を行えば、当然、その規制が協定違反になるかどうかは一目瞭然である。 分かっているなら、協定違反を回避することは容易にできる。 米国政府が負けなしなのは、そうした検討を事前に行っているからだろう。 カナダは特殊な政治形態のためろくに検討もせずに規制を乱発し、メキシコは故意に協定違反を強行しているから、仲裁定で負けるのである。

以上のとおり、想定内解釈での協定違反は、故意や重大な過失がなければ発生しない。 言うまでもなく、故意や重大な過失で与えた損害は、当然、賠償すべきである。 とくに、ADMS事件のような故意の脱法行為による損害は、当然、賠償されなければならない。 故意や重大な過失による損害に対する賠償請求をケシカランと言うのでは、殺人犯が死刑廃止論を唱えるのと同じく盗人猛々しい

想定外解釈 

日本がISD条項で理不尽な負けを経験するとすれば、想定外の解釈による場合だけだろう。 しかし、その場合もそれほど警戒するほどの問題ではない。 ISD仲裁事例にあるNAFTAの事例でも本当に必要な環境規制は認められている。 他の協定でも、本当に人命や健康に関わる規制までもが禁止されるとは考え難い。 よって、本当に必要な規制を慎重に行なっている限り、想定外の毒素に引っ掛かる可能性は低い。

また、想定外解釈による理不尽な仲裁判断は、全ての国にとって共通の脅威である。 事実、NAFTAでは、米国企業に有利に解釈した事例であるにも関わらず、米国発の批判が元になって毒素条項を封じる覚書が結ばれている。

以上の仲裁判断に対して、曖昧な内容の規定によって、国内裁判所であれば認められないような訴えが仲裁によって許容されたとして、米国内を中心に強い批判の声が挙がった。 この動きを受けて、2001年8月1日に、NAFTA自由貿易委員会(NAFTA Free Trade Commission)は、「NAFTA11章についての覚書(Notes of Interpretation of Certain Chapter 11 Provisions)」(貿易委員会覚書)を公表した。 貿易委員会覚書は、1105条について次のように述べる。

  1. 1105条1項は、外国人の待遇の国際慣習法上の最低基準を、他の当事国の投資家の投資に与えなければならない最低基準として課している。
  2. 「公正かつ衡平な待遇」および「十分な保護及び保障」は、外国人の待遇の国際慣習法上の最低標準によって要求される待遇に付加又はそれを超える待遇を要求してはいない。
  3. NAFTA上の、又は独立した国際協定の他の規定の違反があるとの決定によって、1105条1項の違反があったことにはならない。

投資協定における「公正かつ衡平な待遇」 - 経済産業研究所P.8


(5)その後の展開

上記のような公正待遇義務に関する仲裁判断に対しては、米国内を中心に批判の声が挙がった。 その趣旨は、NAFTA11章の曖昧な内容の規定によって、国内裁判所であれば認められないような当事国に対する訴えが仲裁によって許容されたという点等にあった(III.2.参照)。 このような批判を受ける形で、2001年8月1日に、NAFTA自由貿易委員会(NAFTA Free Trade Commission)は、NAFTA11章について覚書(Notes of Interpretation of Certain Chapter 11 Provisions)(「貿易委員会覚書」)を公表した。 貿易委員会覚書は、1105条について次のように述べる。

  1. 1105条1項は、外国人の待遇の国際慣習法上の最低基準を、他の当事国の投資家の投資に与えなければならない最低基準として課している。
  2. 『公正かつ衡平待遇』並びに『十分な保護及び保障』は、外国人の待遇の国際慣習法上の最低標準によって要求される待遇に付加又はそれを超える待遇を要求してはいない。
  3. NAFTA上の、又は独立した国際協定の他の規定の違反があるとの決定によって、1105条1項の違反があったことにはならない。

これは、S.D.Myers事件、Pope and Talbot事件において、NAFTA上の公正待遇義務が国際慣習法を越える内容をもつと判示したことに対して、NAFTA加盟国が危機感をもって対処した結果である。

投資協定仲裁の新たな展開とその意義 - 経済産業研究所P.14

ISD仲裁事例を見れば分かる通り、「S.D.Myers事件、Pope and Talbot事件」は、いずれも米国企業に有利に解釈された事例(ただし、1勝1敗)である。 これが、どうして「米国内を中心に批判の声が挙がった」のか。 正義感の強い米国人がいたということも原因の一つかも知れないが、それよりも、米国にとっても他人事ではないことが大きいだろう。 双務条項である以上、毒素条項は諸刃の剣であり、他国の負けは明日は我が身となる。 毒素条項の危険性には全ての国が等しく晒されるのであり、どこかの国が特別に有利になったりはしない。 よって、想定外の解釈による毒素が見つかり、かつ、その解釈が本当に理不尽な解釈であるなら、その毒素を封じる協定改正には殆どの国が快く応じるだろう。

ISD仲裁事例を見ても分かるように、協定の解釈としては多少厳しいものがあっても、理不尽な仲裁判断は殆ど見られない。 毒素条項が明らかとなった事例でも、結果として、仲裁判断が妥当な場合も多い。 政府が負けた事例の殆どは故意や重大な過失が認められる場合であって、理不尽な負けはほぼない。 仲裁判断の実例から予想される、日本政府が想定外毒素にやられる頻度は、せいぜい、10年に1度あるかないかであろう。 その危険性は、ISD条項を入れないことのデメリットに比べれば遥かに小さい。 そんな小さな危険性を殊更に協調して、ISD条項を入れないことのデメリットから眼を背けるのはおかしい。

外国企業だけの権利? 

国民が利用できない投資協定仲裁を外国投資家だけが利用できるのは、「逆差別」である 投資協定仲裁の新たな展開とその意義 - 経済産業研究所 と主張する者もいる。 確かに、平行手続許容型などでは、外国投資家は国内投資家に比べて訴える機会が2倍に増えたと言えるだろう。 しかし、NAFTAのような国内救済手続放棄型では、そこまで外国投資家の訴えの機会は増えない。

「国内救済放棄型」仲裁条項を採用しているモデルBITは数少ないものの、同条項は、近年米国やカナダが締結したBIT/FTAに組み込まれてきている。 その最もよく知られた例が、NAFTA第1121条である。また、チリ・米国FTA48も「国内救済手続放棄型」を採用しており、その第10.17条2項は次のように定める。

二国間投資条約 / 経済連携協定における投資仲裁と国内救済手続との関係 - 経済産業研究所P.15

投資協定仲裁手続のインセンティブ設計 - 経済産業研究所では、国内救済手続放棄型であっても条件によっては外国投資家の勝つチャンスが増えることが示されている。 これは大きく次の2つに分かれる。

  • 国内裁判所の判断が中立でなかったり安定性がない場合
  • 仲裁判断が中立でなかったり安定性がない場合

前者については、国内裁判所の判断に問題があるならば、それは、その国内裁判所の判断を解決すべきであって、ISD条項の欠陥ではない。 外国投資家にとって、そうした国内裁判所の判断の問題を回避したとしても、ISD条項によって特別な恩恵を受けたのではなく、本来求められるレベルの判断が確保されたに過ぎない。 また、現状で、ICSIDの仲裁判断の中立性を疑うような理由はない。 ISD仲裁事例を見ても分かるとおり、仲裁判断の安定性もそれほど悪くはない。 よって、ISD条項によって外国投資家と国内投資家との間に著しい不公平が発生しているとは言えない。 外国投資家が不当に差別される可能性も考慮すれば、外国投資家だけが得をしているとは言えないだろう。 仮に、仲裁判断の中立性や安定性に著しい問題があっても、それが改善不可能な問題でない限り、ISD条項を否定する理由にはならない。

米国は特別? 

日本でも既に24の国とISD条項を結んでいるが1件も訴えられたことはない。

わが国では既に25を超える国と投資協定などを締結していますが、ISD条項は、先方がその採用を拒否したフィリピンを対象とする協定以外には実はすべて含まれています。 しかし、わが国が訴えられた例は過去にありません。

米国とは未締結ですが、過去にたばこのフィリップモリス社が香港と豪州の投資協定を使って、豪州を訴えたように米国企業が締結相手国で営業していればわが国を訴えることが可能です。 が、それでもまだ1件もわが国は訴えられていないのが現実です。

投資家が国家を訴えた訴訟については、昨年末までに全世界で390件あり、トップは、対アルゼンチンの51件、続いて対メキシコ、チェコ、エクアドル、カナダ、ベネズエラと続きます。対米国の訴訟は対ウクライナと並んで14件で同率7位。 くどいようですが対日本はゼロです。 上位には北米を除き発展途上国がずらりと並びますが、この状況をみれば、ISD条項導入はわが国企業が法律の整わない発展途上国で活動する上で有益なものとなるであろうことは誰もが予想できることです。

TPP:ISD条項は治外法権か? - 金子洋一「エコノミスト・ブログ」


―野党の主張通りにISDを除外し、韓米FTAを結んではいけないのか。

「ISDがなければ、米国企業が韓国政府を相手取り、訴訟を起こすことができず『主権』を守ることができるといった主張は、実態をごまかすものだ。 米国企業が韓国に投資する際、米国本社が投資するとは限らない。 (投資会社の)ローンスターもベルギー法人経由で韓国に投資したではないか。 第三国に法人を設立して投資を行えば、紛争が起きた際、第三国と韓国の間のISDが適用される。 韓国が諸外国と結んだ投資協定85件のうち81件がISD制度を採択している。 迂回(うかい)できる入り口を81個も開けておいて、正門を閉めたところで、ナンセンス以外の何物でもない

韓米FTA:「ISD反対論はナンセンス」!! - 韓国経済.com

これに対して米国相手のISD条項は違うと言い張る者もいるが、具体的にどう違うのかソースを示して説明する者はいない。 また、ISD仲裁事例を見れば分かるとおり、個別の仲裁定事例を見ても、勝率を見ても、米国だけが特別だとする根拠は何処にもない。 確かに、米国では公平とは言えない判決が多いとされるが、それは、訴訟王国だからではなく、陪審員制度を採用しているからだ。 陪審員制度では、正しい方よりも、弁論が上手い方が有利なのである。 しかし、それは、陪審員制度においてのみ起きる問題である。 途上国相手だろうが、米国相手だろうが、ISD条項で同じ第三者機関を利用するなら、同じ仲裁定制度を利用するのだから、各国の訴訟制度の違いによる判断の差は生じ得ない。 よって、米国が訴訟王国であったとしても、それは、米国を相手にした時だけ不当な判決が出る根拠にはならない。

そもそも、米国相手のISD条項が他の国相手のISD条項よりも危険であるなら、とっくの昔に日本も標的にされているだろう。 というのも、直接的な協定が結ばれていなくても、現実にあった次のような第三国を通じた迂回投資や、迂回投資に関する損害をISD条項で訴えることが可能だからである。


ボンネビル電力管理アイダホ州が低下
  • 「フィリップモリス社が香港と豪州の投資協定を使って、豪州を訴えた」
  • 「ローンスターもベルギー法人経由で韓国に投資した」

A国とB国の間にISD条項を含む協定が結ばれていなくても、A国とC国の間にISD条項を含む協定が結ばれていれば、B国はC国を通じてA国に迂回投資したり、C国を通じてISD条項で迂回投資の損害賠償をA国に求めることは可能である。 日本は、既に、そうした「迂回(うかい)できる入り口」を24個も開けているのだ。 既に迂回路が24あるにも関わらず、「わが国が訴えられた例は過去にありません」のであれば、米国相手のISD条項が特別危険とする主張はデタラメであろう。

賠償額 

ISD条項による仲裁事例では損害賠償額が高額になることが多い。 しかし、単に損害の大きな事件が仲裁に付託されることが多いだけであって、手続の違いで損害賠償額が変わっているわけではない。

投資協定仲裁は、平均して解決までに2〜4年を要し、訴訟費用はだいたい数千万円〜数億円かかると言われる。 そのため、実際に投資家が紛争案件を投資協定仲裁に付託するか否かの決断は、こうした費用対効果も勘案して決められることになり、結果としてインフラ・資源開発など巨額投資が絡むケースの付託が多くなっている。

2011年不公正貿易報告書 第III部経済連携協定・投資協定 第5章投資 - 経済産業省P.595

訴訟費用が嵩むために、賠償額の大きな事件しか仲裁に付託されにくいのである。 尚、国内手続と比べて国際的に中立な手続に多額の費用がかかるが、ICSID仲裁の費用が特別に高いわけではない。 「UNCITRAL仲裁ルール等に基づくアドホック仲裁」はICSID仲裁に比べて 一般に、時間が長引きやすく、費用がかさむ傾向があると言われる 2011年不公正貿易報告書 第III部経済連携協定・投資協定 第5章投資 - 経済産業省P.595 とされるように、ICSID仲裁は比較的安い方なのだ。 仲裁人は当事者と異なる国籍にする 投資協定仲裁手続のインセンティブ設計 - 経済産業研究所P.6 ので旅費だけでもかなりの額になる。 両当事者が自らの主張を行うのに十分な機会を与えなくてはならない 投資協定仲裁手続のインセンティブ設計 - 経済産業研究所P.7 ので集まって話し合う回数も増える。 結果として、費用も期間も大きく増える。

蛇足だが、投資額の少ない投資家は泣き寝入りしなければならないのかと言えばそうでもない。 詳細は2011年不公正貿易報告書 第III部経済連携協定・投資協定 第5章投資 - 経済産業省P.596のコラムに書いてある。

歴史 

このISD条項は、米国とカナダとメキシコの自由貿易協定であるNAFTA(北米自由貿易協定)において導入された。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.5

随分とずるい書き方である。 実際には、ISD条項はNAFTAよりも約30年前から導入されたのであり、NAFTAが初めての事例ではない。

投資を巡る「投資家対国家」の紛争手続は、各国においてBITが締結され始めた1960年代には、既に協定に盛り込まれていた。 しかし、当初は提訴による受入国との関係悪化や仲裁手続の実効性等に対する懸念から、投資家による仲裁付託件数は非常に低い数字で推移した。 1996年、NAFTAにおける「Ethyl事件」(米国企業が、カナダ政府による環境規制がNAFTA上の「収用」に該当するとして主張)において仲裁に提訴され、カナダ政府が米国企業に金銭を支払って和解したことが注目を集め、また、時期を同じくして、1995年から開始されたOECDにおける多国間投資協定交渉において投資協定仲裁が大きな問題になったこともあって、投資協定仲裁への関心が高まった結果、1990年代後半からは仲裁手続への付託件数が急激に増加した。

2011年不公正貿易報告書第5章投資 - 経済産業省P.597


以上の諸規定は、投資に関する条約規定に反する当事国の行為によって損失を蒙った投資家が国家をICSID(投資紛争解決センター)仲裁に訴えることができる旨を規定している。 文言の微妙な違いはあるが、このような規定が多くの投資協定に挿入されている。 個人が国家を国際仲裁に訴えるという手続は、投資家が国家と締結するコンセッション契約に書き込まれることはあったが、国家間の条約中に書き込まれるのは投資協定がはじめてであり、その後も他の分野には類例がない。 WTO協定をはじめ通常の条約においても、条約上の紛争処理のメカニズムとして、国家対国家の紛争処理手続(WTO紛争解決手続や国際司法裁判所への自動的な上訴手続)が採用されているが、個人(企業)対国家の紛争処理手続が採用されているのは、投資協定または自由貿易協定の対応規定に限られている。 しかもこの仕組みは1960年代に投資協定が結ばれ始めた時点から協定に備えられていた。

投資協定仲裁の新たな展開とその意義 - 独立行政法人経済産業研究所P.5

確かに、中野剛志准教授は「初めて」とは書いておらず、記述が嘘だとまでは言えない。 しかし、「〜において導入された」では、予備知識がなければNAFTAで初めて導入されたと読むだろう。 「おいて」の後に「も」を入れず「導入」と書くならば、そのような誤読を狙ってるとしか思えないような書き方である。 毒素条項だと印象づけたいがために、投資協定において一般的な条項であることを隠し、特殊な条項であると思わせようとしたのだろう。

導入目的 

米国はTPP交渉に参加した際に、新たに投資の作業部会を設けさせた。 米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲けることなのだ。 日本はISD条項を断固として拒否しなければならない。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.5

まず、NAFTAにおいては「米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲けること」は歴史的事実から不可能である。 当初は提訴による受入国との関係悪化や仲裁手続の実効性等に対する懸念から、投資家による仲裁付託件数は非常に低い数字で推移 2011年不公正貿易報告書第5章投資 - 経済産業省P.597 していて、 1996年、NAFTAにおける「Ethyl事件」 1995年から開始されたOECDにおける多国間投資協定交渉 2011年不公正貿易報告書第5章投資 - 経済産業省P.597 が注目されたことで付託件数が急増したなら、 1992年12月に署名し、1994年1月1日に発効した 北米自由貿易協定 - Wikipedia NAFTAの署名・発効時には、米国政府には「自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲ける」ことを予想することができない。 つまり、NAFTAでは米国政府にとっても「自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲ける」ことは予想外だったのだ。 また、米国企業に有利に解釈したS.D.Myers事件、Pope and Talbot事件(いずれもISD仲裁事例参照)において 仲裁判断に対しては、米国内を中心に批判の声が挙がった このような批判を受ける形で、2001年8月1日に、NAFTA自由貿易委員会(NAFTA_Free_Trade_Commission)は、NAFTA11章について覚書(Notes_of_Interpretation_of_Certain_Chapter_11_Provisions)(「貿易委員会覚書」)を公表した NAFTA加盟国が危機感をもって対処した 投資協定仲裁の新たな展開とその意義 - 経済産業研究所P.14 の事実を見ても、米国政府も積極的に毒素条項を解消しようとしている。 それなのに、どうして、TPPでは「米国の狙いは、このISD条項をねじ込み、自国企業がその投資と訴訟のテクニックを駆使して儲けること」と言えるのか。 米国の陰謀?TPPお化けのとおり、中野剛志准教授の主張は陰謀論としてもお粗末過ぎる。 ISD仲裁事例を見れば分かるように、勝率で見ても、とくに米国が有利とする根拠はない。

それどころか、政府は、日本の国益を著しく損なうISD条項の導入をむしろ望んでいるのである。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.6

既に説明した通り「日本の国益を著しく損なう」は大嘘である。 多少の損害を被る危険性がないとまでは言えないが、予想される損害は極めて小さい。 むしろ、外国政府による日本企業への不当な扱いへの対抗手段としてISD条項は極めて有効である。

恣意的な政治介入を受ける可能性の高い国や、司法制度が未確立な国の裁判所ではなく、公正な手続にもとづき第三国において仲裁を進めることが可能となる。

投資協定の概要と日本の取組み - 経済産業省P.6


冒頭で述べたように、そもそも投資協定仲裁が導入されるようになった理由は、投資受入国政府が投資家にとって不利な措置を取り、また裁判所もそれを追認してしまう、という意味で、適用法のレベルおよび裁判所の実際の判断のレベルにおいて投資家に不利な状況が形成されているという認識があったためである。 国際商事仲裁においてもこのような意味での中立性の問題が指摘されるが、そこで指摘される問題は、ある国の裁判所がその国の国民が有利になるような判断を下すのではないか、あるいはそうでなくてもある国の国民はその国の法制度・慣習などに詳しいのに対して、他国の国民はそのような情報を有していないために結果として不利になるというような裁判所の判断レベルの問題であった。 投資協定仲裁の場合、裁判所が政府が独立していないためにこのような裁判所の判断レベルの問題がより大きなものになると予想されることに加え、例えば国有化のような措置について投資家に不利な立法がなされ、それが裁判所の判断の基準になるという意味で、適用法のレベルで投資家が不利に扱われるという可能性が生じる。 これに対し、仲裁廷は国家の主権の下にはなく、また先に見たように判断に関しても仲裁人の選任などのプロセスを通じて中立性を確保しようとしているために仲裁廷の判断のレベルでの中立性はある程度確保されており、また適用法に関しても特に近年は国際法を適用する場面が多くなっているために、投資受入国法を適用する場合に比べ、相対的には中立的な判断を下す可能性が高い。 もちろん、仲裁廷が適用する国際法が常に中立的といえるかどうかは自明ではないが、投資受入国政府「寄り」になっている投資受入国法と比較すれば中立的であると見なしうるだろう。


例えば、かつての開発途上国の中には法制度そのものがまだ十分に整備されておらず、透明性を欠いており、また裁判官の教育も十分に行われていないという国は存在しただろうし、そうであれば裁判所の判断は不安定で予測不能なものであっただろう。 これに対し仲裁廷では、仲裁人は一般に十分な経験をつんだ弁護士や法学者、あるいは国際的な裁判所の裁判官等から選ばれており、また適用法そのものも国際法であれば投資協定や一般国際法などの比較的内容が明確なものであるため、上のような開発途上国の裁判所に比べれば判断の安定性、予測可能性は格段に高いものと予想される。 もっとも、投資協定に関しての仲裁判断はまだ一貫したものにはなっておらず、なお不安定な状況であるため、仲裁廷が常に投資受入国裁判所に比べ判断の安定性・予測可能性が高いとは限らない点には注意が必要である。

投資協定仲裁手続のインセンティブ設計 - 経済産業研究所P.9〜11

たとえば、安全を口実にした規制は可能である。 もし、これが、外形上は協定に違反しない手段を用いて、実質的に協定を骨抜きにする手段だったらどうだろうか。 それに対して、実質的な協定違反でないか中立的機関に判断してもらう条項を設けることは、非常に合理的で妥当な提案である。 NAFTAの内国民待遇の規定には拡大解釈の余地があるが、ISD条項を設けることそのものに問題があるわけではない。 日本政府が「ISD条項の導入をむしろ望んでいる」のは当然のことであり、「日本の国益を著しく損なう」どころか、日本の国益を守るために必要な措置であると考えられる。

「途上国相手に必要なだけなら米国相手にはISD条項は必要ない」と言う者もいる。 しかし、TPPには途上国も参加している。 それに対して、彼らは「TPPじゃなく日米FTAにすればいい」と言う。 しかし、日米FTAならば、尚更、ISD条項は必須である。

ちなみに私が通産大臣秘書官として携わった日米自動車交渉(二国間)は、世界の耳目を集める一大ニュースとなり、日米交渉では稀な「ガチンコ」の「熾烈な」交渉となったが、そのわけは、米国が、あろうことか市場経済のルールに反する「数値目標」を要求してきたからだ。

すなわち、「日本車に占める米国製の部品のコンテンツ(含有)率をいついつまでに何%にまで増やせ」「米国車を扱う日本でのディーラー数を何年までに何店舗にしろ」といった理不尽な要求だった。 およそ、自由主義経済国で政府のコントロールの及ばないことまで要求してきたのだ。

TPPへの疑問、懸念に答える・・・②貿易自由化はTPPではなくFTAやEPA等二国間交渉で進めるべきだ - 日々是好日

米国の陰謀?TPPお化けのとおり、米国が理不尽な要求を突きつけてくることは良くあることである。 これまで、米国は、ISD条項詳細解説のとおり、何度も対日貿易制裁を発動してきた。 歴史的事実を見れば、米国政府が、米国の国内産業を脅かすほどの技術力・生産力のある国に対して貿易制裁措置を発動することは十分考えられる。 そして、何の抑止力もなければ、米国政府は、そうした貿易制裁措置を自由に発動できてしまう。

では、貿易制裁措置に対する対抗手段として国内裁判所は使えるだろうか。 司法は立法や行政から独立して政府介入を心配する必要がないなら、国内裁判所は使えるだろうか。


我が国では、 日本国憲法第九十七条第二項 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする となっているので、法令上は、条約違反の法律に対して憲法第九十七条第二項違反を理由とした違憲立法審査が可能である。 ただし、法律と条約との整合性を何処まで裁判所が踏み込んで判断して良いか、という点については議論の余地があろう。 一方、米国憲法第6条では 憲法と憲法に基づいて作られるアメリカ合衆国の法律と条約を国内の最高法と定義 Wikipedia:アメリカ合衆国憲法 している。 つまり、米国の憲法上は、連邦法と条約は対等であり、条約に違反することを根拠として連邦法を無効とすることはできない。 国内裁判では 投資家に不利な立法がなされ、それが裁判所の判断の基準になるという意味で、適用法のレベルで投資家が不利に扱われるという可能性 投資協定仲裁手続のインセンティブ設計 - 経済産業研究所P.10 があるとされるが、米国憲法下の裁判では「投資家に不利な立法がなされ、それが裁判所の判断の基準になる」が現実になりかねない。

また、米国には陪審制があるから、政府介入よりも日本人・日本企業に不利な結果を招くことが予想される。 陪審制では、法的な正当性よりも陪審員の印象が判決を大きく左右する。 日本人・日本企業は陪審制でのノウハウに乏しいだけでなく、自国贔屓のために陪審員の印象が悪い状態で裁判を戦わなければならない。 よって、米国の裁判制度で戦うと、政府介入以上に日本に不利な判決が出る可能性が高い。 米国の裁判制度に比べれば、中立的な第三者機関に判断を委ねた方が遥かにマシだろう。

米韓FTA 

しかし、TPPの正体を知る上で格好の分析対象がある。 TPP推進論者が羨望する米韓FTA(自由貿易協定)である。

なぜ比較対象にふさわしいのか?

まずTPPは、日本が参加した場合、交渉参加国の経済規模のシェアが日米で9割を占めるから、多国間協定とは名ばかりで、実質的には"日米FTA"とみなすことができる。 また、米韓FTAもTPPと同じように、関税の完全撤廃という急進的な貿易自由化を目指していたし、取り扱われる分野の範囲が物品だけでなく、金融、投資、政府調達、労働、環境など、広くカバーしている点も同じだ。

そして何より、TPP推進論者は「ライバルの韓国が米韓FTAに合意したのだから、日本も乗り遅れるな」と煽ってきた。 その米韓FTAを見れば、TPPへの参加が日本に何をもたらすかが、分かるはずだ。


政府やTPP推進論者は、「交渉に参加して、ルールを有利にすればよい」「不利になる事項については、譲らなければよい」などと言い募り、「まずは交渉のテーブルに着くべきだ」などと言ってきた。 しかし、TPPの交渉で日本が得られるものなど、たかが知れているのに対し、守らなければならないものは数多くある。 そのような防戦一方の交渉がどんな結末になるかは、TPP推進論者が羨望する米韓FTAの結果をみれば明らかだ。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.6

「その米韓FTAを見れば、TPPへの参加が日本に何をもたらすかが、分かるはずだ。」は全くのデタラメである。 交渉の方向性と「交渉参加国の経済規模のシェア」は関係がない。 交渉の方向性を決めるのは、交渉参加国に自国案に賛成する勢力と反対する勢力がどれだけ居るかである。 よって、日本案に賛同が多い項目では多国間協定の方が有利に話を進められるし、日本案に賛同が少ない項目では二国間協定の方が有利に進められる。

また、TPPがもたらす経済的影響を考えるとしても、経済規模ではなく、貿易及び投資のシェアで見なければならない。

だが政府もTPP推進論者も、米韓FTAの具体的な内容について、一向に触れようとはしない。 その理由は簡単で、米韓FTAは、韓国にとって極めて不利な結果に終わったからである。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.1


もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされていることである。


しかも信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項は韓国にだけ適用されるのである。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.4

最期の一文は、現在では「その後の調べでこの一文は誤りであることがわかり、削除しました。」として削除されている。 しかし、「韓国にとって極めて不利な結果に終わった」「ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされている」は修正されていない。 これらは事実に反する大嘘である。 詳細は米韓FTAのデマに書いてあるが、医療分野では韓国側立場を貫徹するなど、韓国側もかなり頑張っている。

まず、韓国は、何を得たか。もちろん、米国での関税の撤廃である。

しかし、韓国が輸出できそうな工業製品についての米国の関税は、既に充分低い。 例えば、自動車はわずか2.5%、テレビは5%程度しかないのだ。 しかも、この米国の2.5%の自動車関税の撤廃は、もし米国製自動車の販売や流通に深刻な影響を及ぼすと米国の企業が判断した場合は、無効になるという条件が付いている。

そもそも韓国は、自動車も電気電子製品も既に、米国における現地生産を進めているから、関税の存在は企業競争力とは殆ど関係がない。 これは、言うまでもなく日本も同じである。 グローバル化によって海外生産が進んだ現在、製造業の競争力は、関税ではなく通貨の価値で決まるのだ。 すなわち、韓国企業の競争力は、昨今のウォン安のおかげであり、日本の輸出企業の不振は円高のせいだ。もはや関税は、問題ではない。

さて、韓国は、この無意味な関税撤廃の代償として、自国の自動車市場に米国企業が参入しやすいように、制度を変更することを迫られた。 米国の自動車業界が、米韓FTAによる関税撤廃を飲む見返りを米国政府に要求したからだ。

その結果、韓国は、排出量基準設定について米国の方式を導入するとともに、韓国に輸入される米国産自動車に対して課せられる排出ガス診断装置の装着義務や安全基準認証などについて、一定の義務を免除することになった。 つまり、自動車の環境や安全を韓国の基準で守ることができなくなったのだ。 また、米国の自動車メーカーが競争力をもつ大型車の税負担をより軽減することにもなった。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.2

これは言っていることが支離滅裂である。 たとえば、米韓FTAの自動車市場における「無意味な関税撤廃の代償」の項について、 本当に「米国の2.5%の自動車関税の撤廃」が無意味ならば、関税撤廃が無効になっても構わないはずである。 だとすれば、「米国製自動車の販売や流通に深刻な影響を及ぼすと米国の企業が判断した場合は、無効になるという条件」が発動されても、韓国にとって大した不利益を及ぼすはずがない。 だから、韓国の「制度を変更」は韓国のしたいようにすればいい。 それで、協定違反と「米国の企業が判断」するなら勝手に判断させておけばいいのだ。 制裁措置として関税が元に戻されても、「米国の関税は、既に充分低い」から撤廃が無意味だというなら、制裁措置も無意味であろう。 関税撤廃を恐れて米国の言いなりになる必要は全くないのである。 文句を言われても、制裁措置を発動したのなら、おあいこである。 むしろ、その制裁措置が妥当かどうか韓国企業側がISD条項を行使できるのだから、毒素を飲まされるのは米国側だろう。

まとめ 

それどころか、政府は、日本の国益を著しく損なうISD条項の導入をむしろ望んでいるのである。 こうなると、もはや、情報を入手するとか交渉を有利にするといったレベルの問題ではない。日本政府は、自国の国益とは何かを判断する能力すら欠いているのだ。

米国丸儲けの米韓FTAからなぜ日本は学ばないのか 中野剛志[京都大学大学院工学研究科准教授] - ダイヤモンド・オンラインP.6

既に説明した通り、ISD条項がない方が「日本の国益を著しく損なう」ことは明らかである。 外務省や経済産業省の資料を見る限り、日本政府はISD条項についてしっかりと勉強していることが分かる。

Commented by su-mi さん

こんばんは。

>「ISD条項に反対せよ」と言うのではなく、「投資に関する条文が、NAFTAのようにならないよう、注意せよ」と言うべきだろう。

おおいに合点いたしました。

「解説FTA・EPA交渉」(外務省経済局EPA交渉チ-ム編著)という本を読んでいるのですが、仲裁機関のICSIDも透明性を高めて、一貫性のある判定をするように改革をしていること、そのことによって仲裁案件が増加していること、今や投資協定の数が2500を超えていること(OECD推定)からさらに「国対投資家の紛争」は増えることが予想される、と書かれています。

「ISD条項」についての考察 - イザ!

以上、日本政府は、少なくとも、ISD条項の問題を分析し対策を練ったうえでTPPに臨んでいることが分かる。 つまり、「日本政府は、自国の国益とは何かを判断する能力すら欠いている」は全くのデタラメである。

おまけ 

ISD条項 - ニコニコ大百科がいつの間にかまともな内容に修正されている件について。
で、内容がほとんどこのページのパクリな件について。
ていうか、このページの冒頭で「無断転載しても結構です」と書いていた件について。
ていうか、ていうか、このページも実は他所からパクリまくりな件について。
ていうか、ていうか、ていうか、出典明記が重要なんだと言い訳しておきたい件について。
そんなことよりも、このページよりも文章が分かりやすい件についてwww

とりあえず、ID:d/5fxSQlu9乙! できれば次も直して欲しい。

これはアメリカ・カナダ・メキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA:ナフタ)で導入された。

ISD条項 - ニコニコ大百科

ISD条項は投資協定では古くから導入されているものであって、NAFTAで初めて導入されたわけではない。

反論:ISD条項は外国政府の不当な差別から自国企業を守るために締結されるのだから、「治外法権的」な条項であるのは当然のことである。

ISD条項 - ニコニコ大百科

単なる条約の遵守を「治外法権的」と表現するのは正しくない。 正しくは、「国内法より優先する条項であるのは当然のことであるが、批准した条約の遵守を求めることを治外法権とは言わない」と書くべきだろう。

「投資家を損させた」と判断されたため、カナダ政府が有罪となり、上告がないため

ISD条項 - ニコニコ大百科

MMTの事件では、カナダ政府が自発的に非を認めて和解したので、仲裁定判断には至っていない。

その後、メキシコが地下水汚染を防ぐため、アメリカの廃棄物会社Metalcladの設置の許可を取り消した

ISD条項 - ニコニコ大百科

許可を取り消した合理的根拠が示されていないから、仲裁定は「メキシコ行政府の対応に透明性が欠如していた」と認定したのである。 英語版Wikipediaによれば、「地下水汚染」は風評に過ぎず、知事による環境調査でも適正処理が確認されたとされる。 中野剛志准教授らは、故意にその事実を隠している。

このような紛争件数が200件を超えている

ISD条項 - ニコニコ大百科

「紛争件数が200件を超えている」ことが問題になるなら我が国の裁判制度も撤廃すべきとなる。 「200件」の多くが濫訴だと言うなら上告がないことを問題にするのは矛盾している(OECDは濫訴が増えることなどを理由に上告制度に反対している)。

  • 治外法権の復活 「ISD条項」参照
  • 薬価規制撤廃、混合診療解禁による医療の崩壊

しかし韓国はこの米韓FTAで、様々な条文に塗りこまれたISD条項により現代の不平等条約とも言われる条項に合意した。


米韓FTAについては、ISD条項が適用されていないとするリンク


さらにTPPへはラチェット規定が盛り込まれることも確実視されている。 これは米韓FTAにも盛り込まれている。

ラチェットとは自転車の車輪のように、片方向にしか回転しないラチェットレンチのことである。 つまり国際条約に基づいて、国内法や規制を緩和したら、いかなる理由があろうとも再度規制することができないのである。つまり自由化の一方通行にしか法改正を認めない。

  • 規制緩和で日本では使用禁止されている農薬やポストハーベストを許可した。
  • 輸入作物の農薬が原因で、病気になった人が急増した。医学的にも証明された。
  • ラチェット規定のため、もとに戻すことも一部の法改正すらも許されない。

TPP - ニコニコ大百科

これらは明らかな間違い。

  • 協定違反へのペナルティを与えることしかできないISD条項では原理的に治外法権は不可能。
  • 「薬価規制撤廃、混合診療解禁による医療の崩壊」のリンク先には議題になる可能性がゼロとまでは言えない旨が記載されているだけで「薬価規制撤廃、混合診療解禁」の根拠となっていない。
  • 米韓FTAでは米韓双方にISD条項が適用され、その他の条項も同様なので「現代の不平等条約」とする根拠がない。
  • 「米韓FTAについては、ISD条項が適用されていないとするリンク」では中野剛志准教授らのデマを暴いているが、「ISD条項が適用されていない」などとは一言も書いてない。
  • 米韓FTAではGATT第20条(人命や健康等を理由とするセーフガード規定)等が認められており、健康被害を防ぐ目的でなら「もとに戻すことも一部の法改正すらも許されない」とはならない。

その他、全体的に危険性の針小棒大な誇張と利益の矮小化が見られ、反対論へ誘導しようとする非中立的な文章が目立つ。



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